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京都地方裁判所 平成5年(行ウ)24号 判決

原告

高橋幸子

(ほか一九名)

右二〇名訴訟代理人弁護士

折田泰宏

島崎哲朗

牧野聡

被告

(京都市長) 田邊朋之

(京都市助役) 薦田守弘

右二名訴訟代理人弁護士

田辺照雄

"

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  事実認定

証拠(各項末尾に掲記)、前記争いのない事実、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  全国健康福祉祭

(一)  全国健康福祉祭とは、健康及び福祉に関する積極的かつ総合的な普及啓発活動の展開を通じ、高齢者を中心とする国民の健康の保持・増進、社会参加、生きがいの高揚等を図り、ふれあいと活力のある長寿社会の形成に寄与することを目的として、厚生省と開催を希望する都道府県・指定都市とで主催する、各種スポーツ大会、各種展示、シンポジウム、アトラクション等様々な関連事業を行うイベントである。(甲七)

(二)  京都府と京都市は、平成三年四月ころに、共催で平成五年度の京都大会を開催することを決定したが、全国健康福祉祭は、昭和六三年にスタートした事業であり、知名度が低く、また、多人数の高齢者の団体の移動を伴うことから、事前に充分な準備をしておく必要があるとして、京都府の中に全国健康福祉祭推進準備室を設置し、事業の具体的な取組みや大会の啓発活動を進めていくことにした。(証人仲筋邦夫)

(三)  京都市は、京都大会の開催において、多数の京都市職員をあらゆる部局から動員する必要が見込まれたことから、京都大会の開催に先立ち、平成四年一〇月三一日から山梨県において開催されるやまなし大会へ、京都市の各部局の職員を派遣し、運営方法や役員等の動き、行事内容などを視察して参考にするとともに、職員間に京都大会成功へ向けての意識の高揚を図り、全庁挙げての動員体制の確保を図ることを計画した。(乙一〇)

2  老人クラブ連合会(乙一)

(一)  老人クラブ連合会は、老人クラブの普及発展を図るとともに、広く老人福祉の向上に資することを目的とする社団法人で、その構成員は、連合会と同じ目的を持つ京都市内の老人クラブ約一三〇〇団体(京都市内の高齢者合計約八万人が加入)である。(乙一)

(二)  老人クラブ連合会は、老人クラブの増加に伴い、京都市の助言指導を受けて発足した社団法人であり、京都市職員を退職した者数名を含む五名程度の事務局で、京都市から一定の活動費の援助を受け、老人クラブ連合会の目的に沿った各種講習会、研修会、大会、セミナー、協議会等を行い、また、京都市から委託を受けて、園芸広場や老人保養センターの事業を営んでいる。(〔証拠略〕)

3  本件派遣事業の経緯

(一)  京都市は、京都大会の準備及び大会の成功に資することを目的として、前年度の大会の運営状況を視察するとともに、京都大会の広報活動を行うために、やまなし大会に視察団を派遣することを企画した。老人クラブ連合会には、右派遣事業を単独で遂行する実行力はなかったが、京都大会には多数の老齢者の参加が予想されること及び老人クラブ連合会の育成をはかる趣旨から、京都市は、本件派遣事業を老人クラブ連合会に委託することとした。(〔証拠略〕)

(二)  被告薦田は、平成四年一〇月二二日付で、老人クラブ連合会に本件委託契約を締結する決定及び右契約に基づく委託料一二〇四万〇七〇〇円の支出決定をし、被告田邊の名をもって老人クラブ連合会との間で本件委託契約を締結し、委託料として右金員を支払った。(〔証拠略〕)

(三)  京都市民生局の高齢企画課の担当職員の計画立案のもとで、老人クラブ連合会の名をもって、平成四年一〇月三〇日から同年一一月一日にかけて、京都市の各部局職員八四名(職員団体専従者三名、職員団体関係者五名を含む。)、京都市議会議員一四名及び老人クラブ連合会の会員四名の合計一〇二名が、やまなし大会を視察した。

老人クラブ連合会は、平成五年四月一二日、京都市に対し、右委託業務について委託報告を提出し、残金八四万八六三〇円を京都市に返還した。

本件派遣事業に参加した京都市職員らは、やまなし大会の視察結果について、口頭で報告、報告書及び写真を提出するなどした。(〔証拠略〕)

4  本件委託契約の締結権限の所在

(一)  被告田邊は、京都市の市長として、会計機関(収入役)の権限として分離されている事項を除いて、法令上本来的に財務会計上の行為を行う権限を有する者である(地方自治法一四九条、一五三条及び一七〇条)。

本件委託契約は、京都市の事業である本件派遣事業を老人連合クラブに委託するものであり、費用の支出を伴う私法上の契約として、被告田邊に右契約締結権限及び支出決定権限が法令上本来的に存するものである。(弁論の全趣旨)

(二)  局長等専決規定(昭和三八年五月一六日訓令甲第二号)は、局長等が行う専決及び代決に関し必要な事項を定め、組織的かつ能率的な事務処理を図ることを目的として制定されたものであり、これによれば、一〇〇〇万円を超える委託決定は、局長以下に権限委譲がなされておらず、市長の権限に留保されている。(乙六)

本件委託契約は、委託料として一二〇四万〇七〇〇円の支出を伴うものであり、局長等専決規定によって、局長以下に専決権限の委譲がなされていない案件である。(弁論の全趣旨)

(三)  しかしながら、京都市において、市長は、助役に対し、市長の権限に属する事務の処理を適切かつ能率的に行うために、局長等専決規定により局長以下の市職員に決定権限が委譲された事項を超える重要事項のうち、京都市長の決定までは要しない事項の内部的決定権限を、口頭あるいは慣行による指示に基づいて委譲しており、これを「代決」と呼んでいる。

被告田邊は、被告薦田に対し、本件委託契約の締結及び右費用の支出の決定権限を、口頭あるいは慣行による指示に基づいて、内部的に委譲しており、被告薦田は、右権限に基づいて、本件委託契約の締結決定及び費用の支出決定を行ったものである。

(以上につき、弁論の全趣旨)

5  以上の事実が認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

二  争点1(本件委託契約締結権限の所在及び被告らの責任)

1  地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を、広く意味するものである(最高裁昭和六二年四月一〇日第二小法廷判決、民集四一巻三号二三九頁参照)。

したがって、地方公共団体の長は、その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為を、あらかじめ特定の職員に委任している場合であっても、地方自治法上、右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている以上、右財務会計上の行為の適否が問題とされている当該代位住民訴訟において、地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するものと解すべきである。

そして、右委任を受けた職員が、地方公共団体の長の権限に属する当該財務会計上の行為を委任に基づき処理した場合は、地方公共団体の長は、右職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意または過失により右職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、地方公共団体に対し、右職員がした財務会計上の違法行為により当該地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(平成二年(行ツ)第一三七号、最高裁平成三年一二月二〇日第二小法廷判決、民集四五巻九号一四五五頁参照)。

また、右財務会計上の行為を行う権限を委任された職員も、同法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するものと解するのが相当である(平成二年(行ツ)第一三八号、最高裁平成三年一二月二〇日第二小法廷判決、民集四五巻九号一五〇三頁参照)。

2  前記認定事実によると、被告田邊は、京都市長として本件委託契約締結の権限を、法令上本来的に有する者であるが、事務処理を適切かつ能率的に行うために、局長等専決規定により局長以下の市職員に決定権限が委譲された事項を超える重要事項のうち市長自らの決定までは要しない事項にあたるとして、京都市助役である被告薦田に対し、本件委託契約締結の権限を口頭あるいは慣行による指示によって内部的に委譲していることが認められる。

右内部的な権限委譲は、「代決」と呼称されているが、「専決規定の運用について(昭和六一年一一月一日総企文書第一二号)」と題する通達に規定されている「代決」(甲二八)、すなわち、緊急やむを得ない案件又は事前に指示があった案件についてのみ行われるものとは異なり、「委任規則の制定等について(昭和四〇年四月二六日総能内第二号)」と題する通達に規定されている「専決」(甲三二)、すなわち、補助執行の一形態としてのいわゆる内部委任であって、市長がその部下職員に命じて、市長の権限に属する事務を市長に代わり決定させるものであり、その事務は対外的には市長の責任とその名において行われるものと、行政事務上の必要性を同じくするものであり、明文の規定はないものの、局長等専決規定に基づいて局長等に専決権限が付与される場合と、その法的性質を同じくするものと解するのが相当である。

3  してみると、被告田邊は、本件委託契約の締結権限を法令上本来的に有する者として、地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するが、「代決」と呼称される方法により、右権限を被告薦田に対して内部的に委譲し、被告薦田が右権限に基づいて本件委託契約を締結したのであるから、被告田邊は、被告薦田の本件委託契約締結について、指揮監督上の義務に違反し、故意または過失により被告薦田が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、京都市に対して賠償責任を負うものと解するのが相当である。

しかしながら、原告らは、被告田邊の右指揮監督上の帰責事由の存在について何ら主張をしていない。

4  他方、本件委託契約の締結権限の委譲を受けた被告薦田も地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当し、右権限に基づいて財務会計上の違法行為をした場合には責任を負うものと解される。

したがって、被告薦田については、内部的に委譲を受けた専決権限に基づき本件委託契約の締結及び公金支出の決定をしたことについての帰責事由を問題とすべきところ、原告らは、当裁判所の釈明命令に対しても、被告薦田が外部的にも内部的にも権限を有しない事項につき事実上決裁を行って市長に共謀加担した責任があると主張するのみであって、被告薦田の専決権限についてはなんら主張をしていない。

二  以上によれば、被告田邊及び被告薦田の責任についての原告らの主張自体失当であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は理由がない。

よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 中村隆次 池上尚子)

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